島津家に伝わるひな道具と人形たち

姫たちの愛したもの

 日本の伝統行事が家庭から姿を消しつつあると言われて久しいですが、「ひなまつり」は今も多くの方に愛される行事の一つではないでしょうか。


 仙巌園では、ひなまつり(桃の節句)にちなんで、2月15日から4月26日まで、さまざまな春の催しを準備しています。今回ご紹介するのは、島津家に伝わる大ぞろいのひな道具と人形たちについてです。



大名家の豪華なひな道具

 島津家の博物館・尚古集成館では、この時期「姫たちの愛したもの」と題して、ひな道具等を展示しています。展示のメインは、横幅約6メートルにもおよぶ豪華なひな壇です。





 島津家に伝わるひな道具は、享保14年(1729)に、島津家22代継豊のもとに嫁いでこられた、5代将軍徳川綱吉の養女・竹姫が持参したものと伝えられています。このひな道具には、繁栄を示す七宝繋(しっぽうつなぎ)という文様に、徳川家の家紋「三つ葉葵紋」と、島津家の家紋の一つ「牡丹紋」があしらわれています。





 大名家のひな道具における調度品は、実際の姫君が輿入れの際に持参する「婚礼調度(結婚に際して誂える調度品)」の雛型でもあります。島津家に伝わるものは、道中具や化粧道具・文房具・遊戯具・食器などの婚礼調度が網羅され、しかも、その一つ一つが実用に耐えるのではないかと思われるほど、細部に至るまで精巧に造られています。





 99種類407点のひな道具を展示するのは、とても大変なことですが「江戸時代から大切に守り伝えられてきた、姫君たちのお道具」と思うと、身が引き締まります。



故実に基づく有職雛

 ひな人形は三対あり、いずれも「有職雛(ゆうそくびな)」と呼ばれるものです。有職雛とは、有職故実に則って、人形の装束(着物)を公家の装束と同様に、正しくつくった人形のことを言います。有職の意味は「公家社会の決まりごと」です。





 ひな人形三対と五人囃子二組、いずれも装束や髪型、顔立ちが上品に作られていますので、ぜひ実物をじっくりとご覧ください。


 そのほかに、御所人形や三つ折人形なども展示しています。こちらについては、また別の機会にご紹介いたします。毎年、春のこの時期だけ皆さまにご覧いただけるお人形や道具たちです。ぜひ、会いにいらしてくださいませ。



【更新】2020年2月17日



小平田 史穂

小平田 史穂

尚古集成館学芸員
鹿児島大学法文学部卒業。
放送大学非常勤講師 等
南日本文学賞詩部門受賞。
鹿児島県文化芸術振興審議会委員

著作
『みんなの西郷さん』
『復刻版 炉辺南国記』尚古集成館、山形屋にて販売

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